雛人形は大きく分けて「衣装着」と呼ばれるものと「木目込み」と呼ばれるものと2種類ございます。雛人形を探し始めた方は、聞き慣れない言葉でよくわからないと思う方も多くいらっしゃるかと存じます。どちらを選んだらいいんだろうと迷われる方も多くいるかもしれません。当工房は木目込み人形の伝統工芸士が代表を務めている木目込み人形の専門店です。
今回の記事では、伝統工芸士の視点含めて、できるだけわかりやすく簡単に木目込みの雛人形について解説させて頂きます。
1.木目込みとは?
先ず「木目込み」という言葉についてですが、これは製造上の技法を指しています。木目込み人形とは、木や桐塑(とうそと読み、桐の粉末に正麩糊(しょうふのり)を混ぜて作った強度の強い粘土の一種です。)で作った胴体を彫り、溝を入れて、衣装の端を木目込んで製作した人形のことで、正式には江戸木目込み人形と言います。
つまり簡単に言うと、木目込むとは、木や桐塑でできたお人形の胴体に衣装の端を差し込むことで人形を製作する技法です。
※木目込みの具体的イメージについては、以下の「2.木目込み人形制作の工程」をご参照ください。
「木目込み」という言葉はあまり見慣れない言葉ですが、その由来は、上記で説明した通り、衣装の端を木の目に込む(差し込む)ことから、「木目込み」と言われるようになりました。
木目込み技法の発祥は江戸時代の中期頃と言われており、元々は京都の上賀茂神社の雑掌(「ざっしょう」と読み、事務や雑務等を行っていた方を指します。)が、木に布を木目込んで作った人形が始まりと言われています。それが、江戸に伝わり江戸木目込み人形と呼ばれる現代まで伝わる伝統工芸品となりました。
2.木目込み人形(雛人形)制作の工程
江戸木目込み人形の簡単な製作工程と由来等を簡単にご説明させて頂きましたが、言葉だけだとイメージが湧きずらいため、当工房での木目込み人形の製作工程について具体的にご紹介します。
生地作り
①原型作り
先ず粘土で原型を作ります。当工房では桐塑を使用して人形の胴体を製作しますが、イメージの通りの形の人形の胴体を製作するために、その前段として胴体を製作するための原型を製作しているとお考え下さい。
粘土を直接手で形作りながら、へらで細かな形をデザインしたり、整えたりしながら原型を製作します。この型を木わくの中に入れて、樹脂等を流し込んで、原型の型を取ります。この型のことを「かま」と言います。
②ぬき作業
製作した「かま」に桐塑を流し込み、生地(胴体)を製作します。この作業を「ぬき」と言います。
型の中に流し込んだ桐塑が固まったものが人形の胴体となるため、固まった生地を取り出すことから、ぬき作業と言います。
乾燥した生地表面のでこぼこをやすりで滑らかにし、ひび割れがあれば、桐塑で埋める作業を繰り返し行います。この後の木目込み作業を生地全体を丁寧に補正します。
④生地完成
補正が完了した生地に胡粉(貝殻を焼いて作成する白い顔料)を塗り、筋彫(溝を入れる)を行います。
木目込み作業
完成した生地に木目込み作業を行うことで木目込み人形は完成します。
先ず上記④の完成した生地に衣装となる着物を差し込みます(木目込みます)。
生地は桐塑に胡粉をつけた天然の素材ですので、少し柔らかめのため、木目込ベラにのりをつけ、傷つけないように細心の注意を払いながら上記の様に作業を進めます。当工房の製品はすべて手作業で行うため、一つ一つのお人形の衣装には微妙な違いが出てきます。
布の木目込が完了後、のり染が付いていないか細部に用心して、最終仕上げを行い完成します。この木目込み作、簡単なものでも商品としてお客様に提供できるようになるには数年を要する難しい作業です。
3.木目込みの雛人形の特徴は?
木目込み人形の特徴は、上記に記載した通り、人形の「型」から製作し、その型にそって衣装を木目込んでいくため、型の形がそのお人形と衣装にそのまま表れます。
そのため、型作りをする人形職人の創造性が表れやすく、独創的な製品が多いのが特徴です。また、上記でご説明させて頂いた通り、胴体には天然素材を使用した上で、衣装を着せていますので、型崩れがしにくく大変丈夫で長い間お飾り頂けます。加えて、衣装着の雛人形に比べても大きさが少し小さめのものが多く、扱いやすいという点も特徴です。
まとめ
木目込み人形という言葉の由来は、衣装を木に差し込むというところからきており、その技法は江戸時代から続く伝統工芸品に指定されたものということ、木目込み人形の製造の工程についてのイメージを簡単にご説明させて頂きました。
よく衣装着と木目込みの雛人形の違いがわからないという方がいらっしゃいますが、簡単にコロコロとした形が木目込みの雛人形で、ひらひらとした衣装の雛人形は衣装着と覚えて頂ければわかりやすいかと思います。別の機会に衣装着の雛人形についての解説もさせて頂きます。
以上、ご参考程度に木目込み人形について、ぼんやりとご理解頂けますと幸いです。