皆さまはつるし雛(吊るし雛)という名前を聞いたことがありますでしょうか。
雛人形と一緒に桃の節句のひな祭りに飾られているのを実は見たことがあるという方は多いと思います。「何となく聞いたことがあるけど何だかよくわからない」、「聞いたことはあるけれど、見たことがない」、「見たことがあるし、知っている」等、様々なご意見があるかもしれませんが、恐らくその存在意義やどんな使い方をするものなのか、ということまで知っている方は少ないのではないでしょうか。
雛人形と比べてしまうと、知名度は低いのですが、つるし雛には歴史を紐解くと当然ながら作られるようになった背景や、意味があります。今回はそんなつるし雛について簡単に解説していきます。
1.つるし雛(吊るし雛)とは?
つるし雛とは、布で作った様々な人形(飾り)を紐で吊るした飾りのことです。吊るすものには様々なものがあり、ハイハイをする子ども、唐辛子、三角の袋(薬袋)、桃等、5列の吊るしを11個ずつ、計55個の飾りを円を描くように吊るしたのものを対で製作したものがつるし雛の基本的なものです。つるし飾りも雛人形と同じく、桃の節句*1に飾るものです。
*1桃の節句についてはこちらをご覧ください。
つるし雛の由来は?
つるし雛が生まれたのは、江戸時代頃からと言われています。この頃、女の子の誕生とその健やかな成長、将来の幸せを願うという現代のひな祭り*2が広く一般的になっていました。
しかし、当時職人の手で製作された高価な雛人形を誰しもが購入することができるかというと、そうではありませんでした。雛人形を飾って、我が子の幸せを願いお祝いをしたいと思っていても裕福な家庭でないとなかなか難しく、お祝いをしたくても雛人形を購入することができないという方々も大勢いました。そんな方々が、自分自身でひな祭りのお雛様を用意することができないか?と考えて、生まれたものが、現在の吊るし雛の起源だと言われています。
我が子のためにお祝いをしたくても一般的な庶民には難しい、だから身の回りにある布を集めて、小さな人形を作ったのです。家族や近所の方々がそうして作ったお手製の雛人形をたくさん集めて紐で吊るしたものが、今日まで続くつるし雛です。いつの時代も子の健康と幸せ想う親心は変わらないことを表すものですね。
*2ひな祭りの由来についてはこちらをご参照ください。
2.つるし雛に吊るす飾りの意味
つるし雛自体には、上記にて述べた通り、江戸時代には雛人形の代わりとして製作されたものですので、元々は女の子の誕生とその健やかな成長、将来の幸せを願うためのものです。加えて、つるし雛に吊るす小さな布飾り自体の一つ一つにもそれぞれ意味が込められています。工房で製作したつるし雛を例に飾りの一部の意味をご紹介します。
つるし雛の飾り例
桃
桃の実には、魔除けの力があるとされており、無病息災、長寿を意味しています。加えて、桃は果肉が大きく、実が多く実ることから、子宝に恵まれることを象徴していると言われています。桃の節句という言葉の由来ともとても似ています。
唐辛子
唐辛子には、虫よけの効果があるとされており、可愛い娘に悪い虫がつかないようにという意味が込められています。虫とは主に男性を指しているとされています。
梟(ふくろう)
福を呼ぶ、苦労(不苦労)をしないようにという意味込めています。当て字の様な発想でとてもおもしろいですね。梟の飾りもとっても愛らしく可愛らしいものができました。
草履(ぞうり)
当時は、歩くときには草履を履いていたため、早く我が子が歩けるようになりますようにとの願いを込めています。早く我が子と一緒に歩きたいということを昔の人も夢見て願いを込めたのではないでしょうか。
這い子
ハイハイをしている子どもの様子を表しています。子供の健やかな成長を願う心が表されている飾りです。我が子がハイハイをができるようになった時の感動は忘れがたいとっても嬉しい出来事ですね。
鳩
鳩はむせないということから、よくお乳を飲む子でありますように。元気に育ちますようにという意味を込めています。鳩にそんな一面があることはとても意外ですね。
鼠(ねずみ)
大黒さんのお使いであるとされる鼠は金運があると言われています。「金運に恵まれますように、苦労がないように」これも現代の親御様と変わらず、お子さまを想う不変の願いですね。
金魚
3.現在のつるし雛
つるし雛は元々は雛人形の代わりに家族や近所の方々が想いを込めて製作したもので、現代とは少し異なった背景がありました。また、つるし雛の小さい一つ一つの飾りには、意味がない物は一つもないとご理解いただけたのではないでしょうか。